年に一度の健診を、
日々の「生きづらさ」を減らすきっかけに
産婦人科領域での「メンタルケア」の必要性を強く感じて

―先生は普段、どのような業務を担当されているのでしょうか。
イーク渋谷で、婦人科検診のほか、婦人科外来の診察・検査を担当しています。外来では、健診後の再検査をはじめ、月経トラブルや更年期症状などのご相談にも対応していますので、気になる症状がある方は、気軽に受診いただけたらうれしいです。
当院以外では、総合クリニックの婦人科外来や、母校の大学にある婦人科相談室も担当しています。
―大学に婦人科相談室があるのですね。
無料相談のため、診察や処方は行っていませんが、月経やおりものに関する「ちょっとした悩み」を気軽に相談できる場は、学生さんにとってとても大切だと感じています。
たとえば寝込んでしまうような月経痛に悩みながらも、医療機関を受診していない学生さんは多く、そもそも自分が受診するべきなのか、どこに行けばいいのかも分からないんですよね。ただ、社会人になるとますます忙しくなり、受診の機会が遠のくことも考えられます。学生のうちから低用量ピルなどを活用して月経をコントロールできれば、コンディションよく社会人生活をスタートできるかもしれない。だからこそ相談室では、受診に向けてそっと背中を押す役割を担えたらと思っています。
-「産婦人科医」を目指されたきっかけは、何だったのでしょうか?
実は大学入学当初は、社会福祉や心理学を学び、医療ソーシャルワーカーや精神保健福祉士を目指していたんです。けれど精神科クリニックなどでの実習を通して、治療も含めて患者さんを支えていきたいと考えるようになり、卒業してから医学部に編入しました。
医学部ではさまざまな診療科を経験しましたが、中でも産婦人科に強く惹かれたんですね。「女性の一生に寄り添うことができる」というのは、やはり他の科にはない部分かなと思います。
産婦人科では、がんの方はもちろん、不妊治療や死産の方など、「治療」だけでは解決できないケースが少なくありませんでした。どんなに頑張ってもうまくいかないこともありますし、治療自体がつらい経験につながることもあるんですよね。
だからこそ、産婦人科における精神面のケアは欠かせません。私は産婦人科専門医を取得した後、精神科でも学ばせていただきました。その後、所属していた大学病院で「女性心身外来」を担当させていただき、15年間、婦人科領域のメンタルケアに携わっておりました。
精神科では受診をためらわれる方もいらっしゃいましたが、ご本人だけでは解決することが難しい悩みなどに向き合い、時にはご家族にも来院していただき、環境調整を含めてどのようなサポートができるかを一緒に考えたり、地域の保健師と連携をとることもありました。
そういった経験を通して、生活の中の「その人」をみて、ご本人にとって一番いい方向性を考えることが大切なんだと学びました。大学で社会福祉学や心理学を学んだことは、今の自分の診療の土台になっていると思います。
「伝え方の工夫」で、受診者さまの行動につなげたい

―健診施設には、どのような経緯で勤務されるようになったのでしょうか?
私自身も不妊治療をすることになり、救急対応のある大学病院で勤務を続けることが難しくなったことがきっかけで、健診施設で非常勤医として働き始めました。
実際に働き始めて気づいたのは、病気を見つけるためだけではなく、「心配ごとを相談できる機会」として、健診を捉えてくださっている方が多いということです。特に婦人科のかかりつけ医を持つ方は少ないため、「聞きたいことをメモしてきました」と相談してくださる方もいらっしゃいます。
―どのような相談が多いですか?
やはり月経に関するお悩みは多く、毎月つらい思いをしながらも、みなさん我慢されているんですね。詳しくお聞きすると、症状がかなり重い方もいらっしゃるので、お薬でつらさを和らげる方法をお伝えしたりしています。実際に健診をきっかけに低用量ピルの服用をスタートし、翌年の健診で「すごく楽になりました」と報告してくださる方もいらっしゃって。そうした声を伺うと、本当にうれしくなります。
健診の際には「お節介かな…」と思うくらい、困りごとがないかを丁寧に伺うようにしています。たとえば出血量に関しては、自分自身では、正常かどうか判断しにくいものです。「昼間でも夜用のナプキンを使っていませんか?」など具体的に伺うことで、はじめて出血量が多いことに気づく方もいらっしゃいます。
また、貧血で内科にかかって鉄剤を飲んでいるけれど、なかなか改善しないという声もお聞きするのですが、実は月経量の多さが原因のことがあるんですね。その場合は婦人科を受診することをおすすめしています。
こうした日々の診察で感じるのは、やはりこちらの伝え方がとても重要だということです。健診後の再検査についても、「どうお声がけすれば受診していただけるだろう」とよく考えておりました。ただ、私自身が要精密検査となった際、なかなか受診する時間をつくれなくて。みなさん忙しい毎日の中で、再検査に行けないのも当然だということに気づいたんですね。今はただ再検査を促すだけではなく、「なぜ再検査が必要なのか」また「再検査を受けないとどんな心配があるのか」というところから、丁寧にお伝えすることを心がけています。
日頃抱えている不調や悩みを、気軽に相談できる場に
―現在、イークでは常勤ですが、どのようなきっかけで非常勤から常勤へと変わったのでしょうか。
非常勤としては10年ほど勤務してきましたが、スタッフ全員が「より良いクリニックにしたい」という思いを共有していることを常に感じておりました。
週1回の勤務だった私にも、「受診者さまからこんな相談がありました」と細かいフィードバックがあったり、オペレーションの改善があった際には「やりづらい点はありませんでしたか?」と声をかけてくれたり。イークが「安心で快適な健診施設」であり続けるために、スタッフ一人ひとりが、受診者さまの声を活かしながら動いているんですね。
看護師さんたちも、私の婦人科での説明でわからないところがあったら都度質問をしてくれて、とても勉強熱心です。こうした姿勢は、組織全体に根付いていて、スタッフの入れ替わりがあったとしても変わりません。だからこそ、私もここで働き続けられたらと考えていて、2025年にイーク渋谷が開院するタイミングで、常勤医として勤めることになりました。
―日々の診察の中で、先生が大切にされていることを教えてください。
暮らしの中にある「生きづらさ」を減らすお手伝いができたらという思いは、ずっと持っています。
もともと社会福祉を学びたいと考えていたのも「よりよく生きる」ということを支えることに興味があったからなんです。その視点で目の前の方を支えようとすると、症状だけをみるのではなく、心理面や社会面などのバックグラウンドも含めてみる必要があります。
女性は、月経や更年期、妊娠・出産など、ライフステージによってさまざまな経験をしますが、その中で「生きづらさ」を抱えている方も少なくありません。年に一度の健診をきっかけに少しでも生きづらさを減らし、楽に暮らすヒントを見つけてほしいと思っています。
―健診時に質問をメモしてくる方もいらっしゃるというお話もありましたが、きっと先生の思いが受診者さまにも伝わっているように感じます。
そうだとしたらとても嬉しいですね。もちろん、健診では前回とは異なる先生が担当になることもあると思うのですが、イークでは医師が毎回カルテを丁寧に残しています。受診者さまがどのような悩みを持たれていたかも記載されているので、前回の様子を把握したうえで、診察や検査ができるんですね。「イークに来たら悩みを気軽に相談できる」。そんな窓口のような存在になれたらと思っています。
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