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乳がんの治療方法と、早期治療につなげるためのブレスト・アウェアネス

2026.01.07最終更新

監修医
イーク丸の内
乳腺外科 中村 茉美花

乳がんは、日本人女性の罹患数が多いがんのひとつです。
しかし、医学の進歩によって“早期発見・適切な治療”を行えば、多くの場合が社会復帰を果たせる時代になりました。本記事では、中村先生の臨床経験をもとに、乳がん治療の基本と、早期発見のために大切な「ブレスト・アウェアネス(乳房の状態を意識する習慣)」の実践についてお届けします。

乳がんの 主な治療方法

乳がんの治療について調べ始めると、手術、抗がん剤、放射線、免疫療法など、たくさんの言葉が並び、不安になる方も多いと思います。けれど、治療は難しい言葉だけで決まるものではありません。大切なのは、「どんな治療があるのか」を知り、自分の生活や気持ちとすり合わせながら選んでいくことです。

手術

乳がん治療の中心になるのが、手術です。手術には、がんのある部分だけを取り、乳房をできるだけ残す「乳房温存術」と、乳房をすべて切除する「全摘術」があります。どちらが選ばれるかは、がんの大きさや位置だけでなく、再発のリスクや見た目に対する考え方なども含めて判断されます。「残せるなら残したほうがよい」「再発の不安をできるだけ減らしたい」など、感じ方は人それぞれで、その気持ちも大切にされます。

薬物療法

手術に加えて行われることが多いのが、薬物療法です。ホルモンの影響で増えるタイプの乳がんにはホルモン療法が使われ、比較的副作用が少なく、長期間続く治療になることもあります。一方、抗がん剤(化学療法)は、がん細胞を直接攻撃する治療で、脱毛やだるさなどの副作用が心配されがちですが、近年は副作用を和らげる薬も進歩しています。また、がんの特徴を狙って作用する分子標的薬は、効率よくがんに働きかける治療として使われています。

放射線療法

放射線療法は、主に乳房温存手術の後に局所再発を防ぐために行われます。治療は通院で行うことが多く、体への負担も比較的限定的です。仕事や家事を続けながら治療を受けている方も少なくありません。

免疫療法

最近では、免疫療法という新しい選択肢も登場しています。すべての乳がんで使えるわけではありませんが、体の免疫の力を利用してがんと闘う治療として、少しずつ広がっています。

治療と日常生活の両立について

治療を考えるとき、多くの方が気になるのが副作用や生活との両立ではないでしょうか。「仕事は続けられるのか」「家族に迷惑をかけないか」と悩むのは自然なことです。治療のつらさや生活への影響は、我慢するものではありません。ガイドラインでも、患者さんの状態や希望に応じて治療を調整することが大切だとされています。

乳がんの治療は、外科医、腫瘍内科医、看護師などの医療チームと、患者さん自身が一緒に考えていくものです。不安なこと、つらいこと、迷っていることがあれば、言葉にして伝えてください。治療にはいくつもの選択肢があります。その中から、あなたが納得できる道を選ぶことが、これからの時間を大切に過ごすための第一歩になります。

乳がんの治療方法はどう決まるのか?

乳がんの治療方針は、「これが唯一の正解」という形で決まるものではありません。現在の患者さん向けガイドラインでは、医学的に根拠のある標準治療を大切にしながら、一人ひとりに合った治療を選ぶことが基本とされています。

治療を考えるうえで、まず重要なのが、がんの進み具合を示す「病期(ステージ)」です。がんが乳房内にとどまっている早い段階なのか、リンパ節やほかの臓器に広がっているのかによって、手術を中心にするのか、薬物療法を優先するのかといった大きな方向性が決まります。

次に大切なのが、「がんの性質」、いわゆるサブタイプです。乳がんは、女性ホルモンの影響を受けるタイプや、特定のたんぱく質が多いタイプなどに分かれており、これによって効果が期待できる薬が異なります。そのため、治療前に詳しい検査を行い、がんの特徴を調べることが欠かせません。

そしてもう一つ、ガイドラインでも重視されているのが、患者さん自身の希望や体の状態です。年齢や持病の有無、仕事や家庭の状況、治療に対する不安や価値観は人それぞれ違います。治療は生活と切り離されたものではないため、無理なく続けられるかどうかも大切な判断材料になります。

現在の乳がん治療は、標準治療を軸にしながら、こうした情報を組み合わせて考える「個別化医療」が進んでいます。治療方針は、外科医や腫瘍内科医など複数の専門家が話し合い、患者さんと共有しながら決めていきます。不安なことや迷いがあれば、遠慮せずに伝えてください。治療は医師が一方的に決めるものではなく、一緒に選んでいくものなのです。

治療と向き合うために大切なこと

乳がんと診断されると、治療のことだけでなく、仕事や家事、生活習慣のことまで不安が広がるものです。でも、大切なのは、一人で抱え込まず、少しずつ向き合うことです。

まず、治療方針は「医療者との対話」で決めることが基本です。どんな薬を使うのか、手術の順番はどうするのか、副作用はどのくらいか……。ここで意識したいのがSDM(共有意思決定)の考え方です。医師が一方的に決めるのではなく、患者さん自身の価値観や生活スタイル、希望を医療者と一緒に共有しながら治療方針を決めるプロセスです。疑問や不安を遠慮せずに話すことで、納得感のある選択につながります。また、必要に応じてセカンドオピニオンを活用するのも、より安心して選択するための一つの手段です。

治療中は、体だけでなく心のケアも欠かせません。乳がんの治療中は、痛みやだるさだけでなく、ストレスや不安を感じることも多くあります。生活習慣を整えることが、心と体の支えになります。具体的には、栄養バランスのとれた食事、無理のない範囲での運動、十分な睡眠が基本です。これらは治療の効果を高め、体力を保つだけでなく、気持ちを落ち着ける助けにもなります。

また、心の面では、不安や悩みをため込まないことが大切です。家族や友人、同じ経験をした人と話すことで、気持ちが軽くなることがあります。必要に応じて、心理カウンセリングや患者会を利用するのもひとつの方法です。ストレスの軽減は、治療を続ける力につながります。

日常生活の中で気をつけたいのは、完璧を目指さないこと。少しずつ、できる範囲で食事や運動、休息を整えることが大切です。乳がんの治療中は無理をせず、自分のペースで向き合うことが何よりも重要です。そして、治療方針も日常生活の工夫も、自分の価値観や希望を大切にしながら医療チームと共有して決めていくこと。それが、SDMの考え方に基づいた、納得感のある治療への第一歩です。

ブレスト・アウェアネスとは?

ブレスト・アウェアネスとは、簡単に言えば「自分の乳房に意識を向けること」です。特別な検査や難しい方法ではなく、日常の中で自分の体を知り、変化に気づく習慣のことを指します。欧米ではこの考え方が国策として推進されており、乳がんの早期発見に役立つことが報告されています。日本でも少しずつ広がり、医療現場でも推奨されるようになってきました。
具体的には、月に一度のセルフチェックや、定期的な乳がん検診の受診、そして日常生活での小さな変化に気づくことが大切です。乳房の中にしこりがないかはもちろん、乳房自体の形や硬さ、乳頭の向きや左右差など、普段と少し違うなと感じることに目を向ける習慣が、早期発見につながります。臨床研究でも、「定期的に乳房の状態を意識している人は、変化に気づくタイミングが早く、診断時のがんの大きさが小さいことが多い」という報告もあります。
ブレスト・アウェアネスを始めたばかりの頃は、自己触診をしても「これがしこりなのか、それとも自分の乳腺なのか分からない」と戸惑うことがあります。それはごく自然なことです。最初から正確に判断する必要はありません。大切なのは継続して自分の体を意識することです。その積み重ねが、いざというときの「気づく力」につながります。
繰り返し触れているうちに、「あれ?以前と硬さが違う」「左右のバランスが変わった気がする」といった小さな変化に気づけるようになります。中には「片方の乳房が少し小さく、固くなっている」と感じる方もいます。こうした違和感は、日常の中で自分の体に目を向けているからこそ気づけるサインです。
ブレスト・アウェアネスは、異常を探し出すための行為ではなく、自分自身を知り、守るための習慣です。完璧を目指す必要はなく、正解を見つけようとしなくても大丈夫です。日常の中で、少し意識を向ける時間を持つこと。その小さな積み重ねが、早めの受診や安心につながり、あなたの乳房を守る力になります。

さいごに:自分の身体に気づくことが、最初の一歩

乳がんは、治療法の進歩により、今では完治を目指せる時代になってきています。だからこそ、早く見つけて、自分に合った治療を受けることが重要です。
大切なのは定期的な検診を基本にしながら、日常で自分の身体に少し意識を向けることです。自分自身の乳房の変化に気づく習慣を持つと、「いつもと違う」と感じたときにすぐに医療機関を受診して相談でき、安心につながります。この小さな積み重ねが、体のサインに’気づく力”を育ててくれます。
イークでは検診から外来での精密検査はもちろん、治療が必要となった場合の相談や検診と検診の間に感じた乳房の悩みまで幅広く対応し、安心して相談できる環境を整えています。皆様の乳房のかかりつけ医としてお気軽に頼っていただけるような存在でありたいと考え診療しています。いつでもご相談ください。

監修医
イーク丸の内
乳腺外科 中村 茉美花